人外
雪が降る。
重く覆い被さってくる灰色の空からは、常に絶え間なく白い結晶が降り注いでいた。
今でこそ地面に積もってはいないが、このまま降り続ければ、朝方には間違いなく銀世界を生み出すだろう。
「はぁーっ……」
手袋を付けていない、生の手に白い息を吐きかける。
それは暗闇に吸い込まれるように虚空に掻き消えていった。
(正月早々バイトか……ま、金も彼女もない俺にはお似合いかもしれん)
半ば自嘲気味に、男は笑っていた。
別にバイトで疲れて頭がおかしくなった訳ではない。
年末大忙しで働きまくって、さらに年明けて元旦は休んだが、その次の日からまたアルバイト、とくれば、誰だって笑いたくもなる。
(コンビニに休みはないからなぁ……)
諦めの感情。
溜息を吐くと白い息が出て、消えた。
まるで今の自分のようだ、と男は思った。
儚い――と言うより、何もない。
時折肩や頭に積もる雪を払う。
傘を持って行かなかった。
確かに出て行く時天気は悪かったが、まさかここまでくるとは思っていなかった。
(今更色々言うつもりは無い。
兎に角、早く帰らないと)
コートを着てはいるが、雪が降る程の寒さにそれ一枚ではどうしようもない。
コートの前をしっかりと握って、男は小走りに走り出した。
雪が降る。
ボロ屋のアパートの二階、一番奥の部屋の鍵を空けて、中に入る。
被った雪を払い落とす。
駅から近い、低賃金、隣の部屋の音が丸聞こえという三拍子揃った最高の場所。
マイキャッスルにするには上々だ。
「どうだ、参ったかっ」
誰もいない部屋で男は一人勝ち誇る。
妙に悲しい。
「全然参んないよ?」
「…………あ?」
誰もいない筈の空間。
自分以外の存在は在り得ない場所。
そこに、何か一つ分の体積が追加されていた。
気がつけば、ここを出る前にしっかりと鍵をしめた筈の窓が開いていた。
外からは相変わらずの凍えるような風が吹いてくる。
雪もちらほらと舞い込んできた。
窓が全開なのにもろに入ってこないのは、そこに障害物があったからである。
目はくりっと丸く、あどけなさが大分ある。
金髪の短い髪に雪が落ちるが、何故かそれはすぐに消えた。
このクソ寒い空気が満ちている中、それは素肌を殆ど露出した姿でいた。
あまり豊かではない胸と股間部分だけを、革か何かで出来ている下着のようなもので隠している。
窓の縁に腰掛け、足を組んでその上に肘を落とし、頬杖をついているそれは、間違いなく人型の物体。
全体に幼さが残る感じはするが、何故か、理由はわからないが、その姿に酷く惹かれている自分に気付き、男ははっとした。
だが同時に、目を細めて微笑むその姿は、男の中に言いようのない恐怖を生み出していた。
何処か遠い所で警報が鳴っている。
喉が、渇く。
唇が乾く。
なのに、掌はびっしょりと汗をかいているのがわかる。
言葉を放つために口を開く。
ぱり、という音と感覚がした。
警告しなければ。
勝手に人の家に入ってきた奴に。
「だ……誰だ?」
緊張と恐怖に彩られた声。
何故これ程までに自分は怯えてるのか……男には理解できなかった。
そして、恐怖のためにとる行動――逃げる、という事も、何故か不可能だった。
足がそこに貼り付けられている――そんな感じ。
人型のそれ――少女はスッと立ち上がった。
そして、おもむろに部屋の中を歩き出す。
それと同時に、窓が閉じた。
ひとりでに。
「……!?」
近づいてくる。
一歩、また一歩。
その顔に微笑みを貼り付けて、部屋の中を真っ直ぐに、少女は男の方に向かってきた。
「動けないわよね?私の〝魔眼〟で釘付けにしてあげたんだから」
「な……え……?」
少女の言葉通り、男は顔以外、指はおろか髪の毛一本の揺らぎもなくなっていた。
自分の意思から完全に離れてしまった。
〝魔眼〟――少女はそう言った。
「人外のものと出会ったとき、ヒトは、最初は自分達の世界・常識に当て嵌めようとする。
そして、それが意味を成さないと知った頃には、もう終わり」
ゆっくりと男に歩み寄ってくる少女。
歩みに合わせて言葉を紡ぐその姿は、外見よりも遥かに思慮深く、また妖艶に見えた。
「じん、がい――?」
「そう。
ヒトでないもの。
貴方達で言うところの。
化物とか怪物とか、その辺」
男の脳は、それを容易く理解するためには人間的すぎた。
この目の前の少女は何を言っている?「ま、わからないのも当然。
でも、そんなことはどうでもいいの」
少女が、すぐそこにいた。
自分のすぐ目の前に。
幼い体は、男の胸程の身長しかない。
なのに、その圧倒的存在感は、男の心を押し潰さんとする程。
「私ね、下僕が欲しいの」
「げ、ぼ……」
「そう。私の可愛い、忠実な下僕」
男は、またしてもその言葉の意味を理解することが出来なかった。
恐怖が、脳と心と体を完全に支配していた。
「貴方、他人よりも随分と強い力を持っている……だから、貴方に決めた」
「きめた……?」
「――貴方を、私の下僕にする」
瞬間、その言葉だけ理解した。
彼が理解したのか、彼女が理解させたのかは知らないが、彼の脳はこう受け取った。
『自分と言う存在の蹂躙』。
「……ぁぁぁああああああああっっっ!!!」
男は叫んだ。
声帯が潰れんばかりに、叫んだ。
正確には、叫んだつもりだった。
実際には、蚊の飛ぶ音よりも小さい、微かな空気しか漏れていないのだが。
「さあ――食事の時間よ」
少女は少しだけ背を伸ばし――否、違う。
その足は地に付いていなかった。
重力を無視して、少女はふわりと宙に浮いたのだ。
そのままさらに近づいていく。
文字通り、少女の顔が男の目と鼻の先に来た時、男の恐怖は極限にまで達した。
顔を素通りし、少女はその顔を男の首筋に近づいていく。
きちんと着込んでいた筈のコートははだけ、普通の人よりも白い肌が覗いていた。
そして――
かぷっ
「――――!!!!」
今、何をされた!?自分は今、この少女に何を――そう思ったところで、男の思考が急激に混沌と化していく。
まどろみに溶けていく。
段々力が抜けてくる。
同時に体が自由になったのか、全身を小刻みに震わせていた。
首筋から、何か抜き取られていく感覚。
それが異様な快感に繋がっていた。
直接的ではないが、それでも男のモノは確かに屹立していた。
――静かな、だが確かに何かが変わろうとする刻が流れた。
「……終わり」
すっと、男から離れる少女。
すると、何かが弾けたように男がその場に崩れ落ちた。
途中で、言いようのない脱力感に襲われ、そのまま気を失ったのだ。
「随分と美味しい血だったわ……。
うふふ……お楽しみはこれからよ」
ペロリ、と手に零れたそれを舐め取りながら、少女は男を見下ろして微笑んだ。
淫猥な微笑。
――赤い液体を、口の端からつぅ、と垂らしていた。
*******
目を覚ました。
まず視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井であった。
次に気付いたのは、圧倒的な倦怠感。
指一本動かすのがまどろっこしい。
しかし二度寝しようとは考えられない。
何故か意識だけははっきりとしていた。
まるで、雲一つない夜空に輝く満月のように。
「起きた?」
声が聞こえた。
首を少しだけ起こして声の方を向く。
そこに、いた。
それは、いた。
あの、下着姿同然の、金髪の、幼女が。
「幼女とは酷いわね」
口に出していないことに平然と突っ込みをいれられ、軽く困惑。
自分は今何か口に出したのか?いやいや、そんなことは……
「念話って言うの。もっとも、今は私が一方的に繋げてるだけだけど」
少女の説明。
よく、わからない。
ほう、そうなのか。
じゃあ、そういうものなんだろう、と思うくらい。
「大丈夫?意識はしっかりしてるのよね?」
ああ、大丈夫。
比較的しっかりしてるつもりだ。
既に念話の要領を得ていた。
対した順応力である。
「取り敢えず、起きて。
話す事が色々あるから」
ああ、わかったよ。
むくり、と体を起こす。
倦怠感がなくなったわけではないが、不思議とスムーズに起き上がれた。
と、そこで変化に気付く。
足がない。
いや違う、足首から下が見えないのだ。
だが切断されたような痛みも跡もない。
と言うか、しっかりと動かせる。
動かした際に、丁度脛の辺りで何かが盛り上がった。
不思議な感じがして、裾を捲り上げた。
そこに足はあった。
だが、おかしい。
だって、それはそうだろう。
明らかに短いじゃないか。
俺の足は、自慢じゃないがそれなりに長かった筈だ。
「気付いたみたいね。
よぉく確認してみなさい」
少女の声に反応。
取り敢えず、今の自分の場所を確認する。
するまでもなく。
ここは自分の部屋だ。
そして、自分が寝ていたのは電気コタツの横に敷いてある布団。
そして机を挟んで、少女がそこに座っていた。
両肘を合わせて机につけ、頬を両手で包むように頬杖をついて、微笑んでいた。
髪と同じ、金に染まった瞳の虹彩は、猫のように縦に細長く、黒かった。
そして、自分に気付く。
明らかに、体が縮んでいる。
元々白かった肌はきめ細かで、美しかった。
そして……自分のすぐ真下に、本来あるまじきもの。
二つの膨らみ。
「やっぱり、元がいいと変化後も可愛いのよね♪」
金髪の少女が体勢はそのままに、嬉しそうに目を細める。
その様子は、まさに外見の歳相応の反応だ。
だが、気付いた。
少女の言葉の中に、〝変化〟という単語があったことを。
「変化?……あ」
思わず、自分の口を覆った。
声が高い。
まるでそう、女の子のような声だ。
「……ひょっとして」
「そうよ。
貴方、今は女の子」
少女の言葉は、大してショックにはならなかった。
何故か?自分でもわからない。
ただ、少女の言う事は絶対だ――何故か、そう信じて疑わなかった。
自分でも不思議なくらい。
何だか自分自身で掴め切れていない部分が多すぎるようだ。
だが、それも最早どうでもよくなっているのかもしれない。
(俺、こんなに流されやすい人間だったかな……?)
自問する。
答えは――NO。
「ある程度の強制力を働かせてあるから、それは当然よ。
側近に裏切られたらたまらないもの」
男――今は女の子だが――の心を覗き、少女が原因を伝える。
強制力……成程。
だからか。
何だかそれだけじゃないような気もするが。
「それで、どうして俺をこんな風に?」
不思議と、先程までの恐怖は掻き消えていた。
それが、自分が少女と同じ世界に足を踏み入れてしまった所為だと気付くのには、まだ少しの時間が必要である。
「さっきも言ったけど、多分覚えてないでしょうね。
いいわ、もう一度説明してあげる」
少女は手を下ろし、真摯な表情で少女に変わった男を見つめた。
その口元には、変わらず微笑が刻まれている。
「まずは、自己紹介するわね。
私の名前はレイア。
吸血鬼、と言えばわかり易いかしら」
金髪の少女――レイアの言い出しはそうだった。
吸血鬼。
人在らざるもの。
その存在を、少女(表記上、元男を指す)
は理解した。
普通のヒトならば、何を馬鹿な事を、と返すこと受けあいである。
――だが、少女は既にヒトではなかった。
「まあ、面倒なことは省くとして。
私は結構昔に封印されたんだけど、それが何でか解けちゃって。
目覚めたのはいいけど、食事しなきゃ死んじゃうし」
食事。
吸血鬼の食事と言えば。
それは一つしかない。
「で、どうせ食事するなら仲間を増やしたいし、近くにいい獲物はいないかなー……って探してて、貴方を見つけたの。
貴方は気付いてないと思うけど、普通の人間なんかよりも数倍、いえ十数倍強い力――霊力とか魔力とか。
それを貴方は持ってるの。
意思性が込められてないから、それは純粋な〝力〟となる」
つまり、ある程度自分で使えるようになると、それは所謂霊力とか魔力と呼ばれるようになり、自分に害を成すものとなり得るのだそうだ。
「だから、貴方を喰べた。
ここまではいい?」
「ああ」
わからなくもない。
ただ、自分にそんな力があったとは知らなかった。
凄く可愛らしい声で、ぶっきらぼうな返事。
可愛い容貌に無表情とくれば、その違和感は計り知れない。
「で、貴方が女の子になっちゃった理由。
これは私の側近として、それなりに容姿が整った奴じゃないと気にいらないの。
確かに男のままでも十分ではあったんだけど、やっぱり可愛い女の子の方がいいじゃない?今時そんな美少女なんていないもの」
誉めてるのか、フォローのつもりなのか、にやりと笑って少女をの顔を覗くレイア。
少女は内心溜息を吐いた。
だが、勿論理由はそれだけではなかった。
「でも、もっと大きいのは力の循環。
私の支配下になった者の力を、私は貰うことが出来るの。
ああ、別に奪うって訳じゃないから安心して?部下には全く関係無いんだけど、吸血鬼の集団の頭、まあ簡単に言えばボスは、その下僕達の力を利用する事ができるの。
つまり、私の力プラス下僕の力、この解が私の総合的な力になるの。
で、その循環率、同性の方が効率良いの。
いくら力が強くても、それを効率良く使わなきゃ勿体無いでしょ?」
自分の強さをより高めるため。
それが、レイアが男を少女に変えた理由だった。
そして、力を蓄えなければ他の集団に壊滅させられてしまう、とも言った。
「頭が強くなければ叩かれる、というのは確かに道理だな」
「納得してくれた?」
「ああ」
これも理由はわからないが、大体理解できた。
唯一気にいらないとすれば、自分の意志がそこに介入していないことか。
(下僕に意見する権限は無いってことか……)
「そうでもないわ」
またも少女の心を読んだレイアは、立ち上がって少女の傍らに移動し、しゃがみこんだ。
「貴方の力は私にとって超が付くほど価値のあるものなの。
だから、そんないいものを回してくれる貴方は、それなりに待遇するつもりよ?」
「だったら、すぐに元の姿に……」
「でも、それは困るのよねぇ」
レイアはおもむろにぐいっと顔を少女に近づけた。
同じ分だけ顔を下げる少女。
「貴方、肉体的にはヒトの平均くらいしかないんだから、元に戻したところで私にはマイナスしかないの。
だから」
再び、顔を近づける。
今度は勢いを殺さない。
「男に戻ろうなんて……思えないようにしてあげる」
そして、距離がゼロになる。
「ん……」
「!?」
レイアは何の躊躇いも無しに、少女の唇にキスをした。
甘い、しかし何処か鉄っぽい味を少女は感じた。
接触の刹那、レイアは自分の舌を少女の唇を割って少女の口内に入れた。
すぐさま少女の舌を捕らえると、強く吸い込んで絡めた。
くちゅっ、くちゃっ……「んん、んむ……」
レイアの唾液が少女の口に流れ込む。
それを吐き出す事も出来ず飲み込むと、体の中がぼうっと熱くなっていくのが自分でよくわかった。
「んはっ……ん……」
その時には既に、抵抗しようという気は起きなかった。
寧ろ、自分から舌を絡めて、もっともっと、と貪欲に求める。
求めるものは当然――快感だ。
絡められる舌。
流れ込む唾液。
レイアの吐息。
甘い声。
これらが全て、少女の快感に繋がっていた。
「んふっ……どう?私の媚薬要素たっぷりの唾液の味は?」
「はぁっ……媚薬……?」
そう言えば、あの唾液を飲んでから妙に体が熱くなっていると思ったら……そういう理由だったのか。
「ふふ、すぐに欲しくなるわよ?勿論、女の子としてね……」
妖艶な笑みを零して、レイアは少女の顔を覗き込んだ。
元が雪のように白い肌に、薄らと紅色が差している。
潤んだ瞳が、レイアの顔を映している。
「うふふ……か~わいい♪」
ちょん、と頬を突付こうとして、その指は空を切った。
咄嗟に少女が顔を引いたのだ。
「む」
不満げなレイア。
「俺に何か、しようとしても、無駄だから、な」
咄嗟に理性を取り戻したのか、キッとレイアを睨みつける少女。
だが、全くもって恐くない。
寧ろ怯えるような仕草が可愛らしい。
「うふふ、無駄なのはどっちかしら?じきに体とアソコが熱くなって、耐えられなくなるわよ?」
「知るか」
相変わらずぶっきらぼうに答える少女。
だが、それが崩れるのも時間の問題か。
ふと、レイアは大事な事を聞いてなかったことに気付く。
「そういえば、貴方名前は?」
「……和智。
沖田和智(おきたかずとも)
」
「そう……」
そして、再び妖しい笑み。
いい事を聞いた、そんな表情。
「じゃあ……オキタ、ひとりエッチして」
「え?……あ、はうっ!」
レイアの呟きは、ただの頼みごとだった。
だが、何故か、その言葉に従って少女――沖田は手を動かした。
右手がまだ着ているコートの中に伸びて、シャツの中に忍び込み、その豊満とは言えない胸を掴み優しく包むように揉み始めたのだ。
「はう、んっ……な、何、でっ……?ふぁっ」
「んふふふ……宿主は使役の名前を使うことによって、その肉体を支配することができるのよ。
だから」
沖田の目と鼻の先に、自分の顔を近づけるレイア。
沖田は何かを訴えるような表情でレイアの顔を見返す。
(ああん、もう可愛いじゃないのよぅ)
一瞬の思考が顔に出たのか、ヒッと喉を鳴らし引き下がる沖田。
だが、どうしても手は止まらない。
ただ触れてるだけのような揉み方では満足できなくなったのか、少しずつ力を加えていく。
肌が上気し、息が上がってくる。
下がられたことに内心舌打ちしつつ、レイアは再び今度は顔を近づける。
同時に、沖田の顎にそっと触れ、撫でる。
ピクン、と体が震えた。
「――貴方に、拒否権は無いわ」
その言葉を聞いた途端、沖田の中で何かが蠢いた。
何か、と問われても答えようのない何か。
強いて言うならば、人外としての蠱動――か。
正直、女性の胸を揉むという行為を体験した事がなかった沖田はその手に返ってくる感触にはっとさせられていた。
小さいもののはっきりとその柔らかさが伝わってくる。
加え、自分で揉む度に、そこからじんわりと快感の波が体に広がる。
それが、男としての気持ちよさと、女としての悦びである。
双方が混ざり合い、思考はどんどん鈍ってくる。
(やばい……このままじゃ俺、自分じゃなくなってしまう)
その〝自分〟が、一体何を定義するのか。
ただ揉んでいただけでは満足ならないのか、微妙に硬くて小さい部分、乳首を指先で転がす。
「ふんっ……」
それだけで体が跳ね、声が漏れて、刹那の快感が背筋を走る。
「うふ、どう?女の子の体は?」
顔を近づけていたレイアが、沖田の耳元に息を吹きかける。
「ひゃあんっ」
直接的な愛撫では無いのに、過度に反応してしまう。
体の火照りがより一層高まる。
いや、直接触れていないからこそ、と言うべきか。
「可愛い声上げてくれるじゃない♪女の子みたいな性格だったの?」
「ち……違……」
否定しようにも、女のような甘い声しか出ない。
肉体は意識と離れて女になってしまっているのだから、それは当然である。
「でも、これ以上焦らしておくのも勿体無いし、かわいそうよね」
レイアは沖田の服を一撫でする。
と、まるで最初から着てなかったかのように、沖田が一糸纏わぬ姿になる。
「え……え?」
一瞬、何が起きたのかわからない、という表情。
だがしかし、自分の視界に飛び込んできた映像が、沖田の精神を揺り動かす。
――〝自分の胸を自分自身で揉んでいる〟という光景。
「あら、綺麗なピンク色♪」
レイアはすぐに近寄り、空いている片方の胸の頂をぺろりと舐める。
「ひっ!」
鋭い感覚がはっきりと伝わり、背筋をピンと伸ばす。
小さい悲鳴を上げたのが自分であると気付くのに、少しの時間が必要そうだった。
だが、そんな時間を与える間もなく、レイアは次の手を打つ。
舌を尖らせて、先端をつつく。
「あふうっ、んくっ」
乳房全体を舐めるようにベロリと舌を這わせる。
「ひああっ、くふぅ」
レイアの愛撫は、的確に沖田が感じるところ(つまり、女性の性感帯)
を突いているようで、沖田は気が狂いそうな程の快感を受ける。
一般に、女性の快感は男の数倍と言われるが、元が男だった分、沖田が感じる快感は並大抵のものではなかった。
外から見れば、感じ易い女性である。
「さて、そろそろこっちもいいかしらね」
くちゅっ「え……あ、ああああっ!?」
突然、下半身からの突き抜けるような快感に、喘ぎとも悲鳴ともわからない声を上げる沖田。
レイアが沖田の秘密の園……膣口に触れたのだ。
触れただけだというのに淫らな水音が響き、そこはまるで指を誘い込むかのように疼いている。
「触っただけなのに……オキタは淫乱ね」
「ちっ、違ぁ……んふうぅぅ!!」
つぷっ沖田が反論し、足を閉じるするよりも早く、レイアの指が沖田の膣に中指を侵入させた。
中はまるで襞が別の生き物のように蠢き、中指に食いついてくる。
胸への愛撫で十分に濡らされ、第二間接まですんなりと入った。
「うわ、聞いた?ずぷって言ったわよ、ずぷって」
「そ、そんなの……ひああ、あふうっ!」
言ってる傍から、人差し指を挿れるレイア。
沖田は仰け反って耐える。
開く、襞を引っ掻く、奥まで突く……そして、そこに触れたとき、沖田の体に激震が走る。
「あ、うあああああああっ!!」
Gスポット。
女性の最も感じ易い場所の一つ。
さらに親指でクリトリスも攻めた。
沖田はピーン、と背筋を張って数瞬固まり、その後にそのままくてっと力無く倒れた。
足は大きくMの字に開いたままだ。
あまり時間を掛けていないのに、絶頂に達してしまったようだ。
顔をレイアから背け、肩で息をして、ぼーっと何処かを見てる沖田。
瞳は焦点が合ってないように見える。
「んふふふ……いい眺め。
さて」
レイアはその場で下着を脱いだ。
そして、そこには性別と相反するものが、猛然と反り返っていた。
「魔法って便利よねー。
こんなことも出来ちゃうんだから」
沖田に言い聞かせているのか、それとも独白なのかはわからないが、己の逸物をそっと撫でながら嬉々として語るレイア。
そんな声が耳に届いたのか、沖田は横に向けていた顔をレイアに向けた。
そして、それも目にした瞬間、再び目を大きく見開いた。
気絶する前には確かに自分についていたものだが、今こうして見ると妙に禍々しく見えるのは気のせいだろうか。
「さ~て、壊れちゃう覚悟はいい?」
無論覚悟などさせる隙も与えず、レイアはその肉棒を秘唇に宛がう。
「ま、待っ……」
ずぷぅっ……「かっ……きゃあぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が、部屋に響き渡った。
「痛い、痛い痛い痛い止めて抜いてぇぇぇっ!!」
激しく頭を振って涙を散らし、腕をレイアに思いっきり押し付けて離そうとする。
本気で拒絶する沖田。
あれだけ濡れていたというのに、破瓜の衝撃は想像以上のものだったようだ。
「あ、あら?」
どうやら挿入した方もここまで嫌がるとは思ってなかったのか、怖気づいたように身動ぎがとれなくなってしまった。
「あやぁ……これは失敗したかもね」
「い、っぎぃ……お願い……早く、抜いて……」
もうすっかり女言葉になってしまっているが、そんなこと股間からの激痛に気にしていられない。
レイアの肉棒は半分程度まで入っており、結合部からは破瓜の印である赤い液体が少しずつ漏れている。
「ん~……でもねぇ……」
流石に涙を流して訴える、自分と同じくらいの少女を酷い目に合わせるのはレイアにも忍ばれた。
だが、この分身を締め付ける膣内は、想像を遥かに超えるものだった。
レイア自身、女性と交わったことも少なくない。
だが、その中でもダントツで良い。
具体的に言えば、締りの良さ、中の柔らかさ、暖かさ……どれをとっても挿入した瞬間に射精してしまいそうになる程のものであった。
「ちょっとばかし辛いかもしれないけど、我慢してね?」
レイアは繋がったまま目を閉じて何かぶつぶつと呟いている。
そして右手を沖田に翳すと、暖かな光が彼女を包んだ。
「っぐぅ…………え?」
途端、沖田の痛みが引いた。
代わりを埋めるように体に満ちてくるのは、底知れぬ快楽。
「痛くなくなった訳じゃないわ。
痛覚を遮断しただけ。
後でツケは回ってくるわ」
「何、で……?」
「……正直、我慢できないわ。
こんなに気持ちいい中、そう簡単に諦められないわ。
後で治癒もしてあげるから、勘弁して、ねっ!」
言葉通り我慢できないのか、厳しい表情でレイアは沖田に腰を激しく打ち付ける。
「あっ、あああっ、ふああああ!!」
どういう経緯であれ、痛みが消えた沖田は、最早快感の虜になってしまった。
体の内側から全身に突き抜ける快感が全てだった。
美しい少女が大きく仰け反って、舌を出して喘ぐ姿は、それはとても官能的であった。
「あ、あふっ、だめ、だめぇ、気持ちよすぎてっ!」
「そう、それは、よかったわ……でも、悪いけど私、もう、限界っ……!」
快感を認めた沖田の膣は心と結びつき、先よりも激しく蠢き、求めてくる。
中に入れているだけなのに、抜き取られていく感覚をレイアは覚えていた。
男なら、まだ長く持たせることもできよう。
だが、いくら経験があるとはいえ、レイアは女。
射精を長引かせるテクニックなど、どう思いつくものではない。
「出す、わ、よっ……っっ!!」
一番奥に熱い濁流を打ちつけようと、腰を強く叩きつける。
どくどく、どぷんっ……!「あ、熱ぅ……!」
白濁の液体を体内に放たれて、軽い絶頂に達する沖田。
体をビクビクと震わせて、それを享受する。
だが、それで燃え上がった炎を消せるはずもなく、滾った欲望は今だに体に残ったままだ。
「…………」
だが、軽く達して理性が欠片戻った頭は、それを求めることをしなかった。
これ以上口にしたり何かしたら、彼女の――レイアの言うとおりになってしまう。
「ふぅ……」
ひとしきり出し終えたレイアは、少し萎えかけた逸物を引き抜こうと腰を引く。
ぞわわっ……「……っ!」
「ふわっ……!」
二人が呻くのはほぼ同時だった。
互いに、想像しなかったところから快感が走ったからである。
そんな風に身動ぎする沖田を見たレイアは、再び欲望に駆られてしまう。
「……そう言えば、貴女はまだイってなかったわよね?」
「え……」
「ふふ……女の悦び、最高まで導いてあげるわ♪」
「え、あ、ちょっと……やめ、あ、ひあああぁぁぁっ!!!」
*******
雪は、どうやら止んだようだ。
窓からは昇り来る朝日の赤い光が差し込んでくる。
その光が、屋根に積もった雪に反射して、沖田の瞳を焼いた。
あのまま朝までぶっ続けだった、わけではない。
夜中にお互いダウンし、たまたま沖田が先に目が覚めただけだ。
――痛みによって。
「っ痛ぅ……」
股を押さえることすら痛みに繋がるのか、そのまま窓の下に寄りかかり、ぺたりと座る。
暫しぼーっとした後、右手を上げて己の掌を見る。
昨日までとは全然違う、小さくてか弱そうな手。
華奢な少女の手。
「……はぁ」
深い溜息を吐いた後、天井を見上げる。
何か考え事をする時はそうするのが彼女の癖であった。
(どうせ、このレイアとか言う女には敵わないと思うし、どう頼んだところできっと元には戻してくれないだろう。
だったら、取り敢えずはこのままで良しとしよう。
問題は、女になったことをどうするか、だな……)
「あら、決心してくれたんだ?」
「!」
眠っている筈の相手から突然声を掛けられて、思わずビクッと身を潜める。
毛布から顔だけ覗かせて、ニヤリと笑いながらレイアが沖田を見上げていた。
鋭い犬歯が覗いている。
そうか……念話か。
「そゆ事。
ま、もう私が手放す気なくなったけどね」
ごろごろと転がりながらのたまうレイア。
何を呑気に……と思ったところで思考を停止する。
「いいや、いずれは元に戻してもらうぞ。
別にずっとこのままでいいとは言ってない」
「でも、気持ちよかったでしょ?」
その言葉がきっかけで、沖田の脳裏に眠る前の記憶と感覚が甦ってくる。
――体が、火照り始める。
「知るか、馬鹿」
それを振り払うかのように、頭を振って拒絶する沖田。
だが、頬が紅潮するのは押さえられなかったようだ。
「うふふ、まあいいわ。
取り敢えず、貴女は私の記念すべき側近第一号にしてあげるわ」
「嬉しくない」
ぶっきらぼうに答える沖田。
だが、そんな様子を微笑んで見るレイア。
――こうして、沖田和智の化物生活は始まったのであった。
<了>