「この残酷で優しい世界の中で」~あなたがつなぐあたしのこころ~ その1

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■■【1】■■

どこからか、カレーの匂いがしていた。

夕暮れ。
河原。
河川敷の土手。
昼間の熱気を含んだ草いきれ。
かすかな冷たさが忍び込んだ肌寒い風は、
夏が終わろうとしていることを感じさせる、
どこか物悲しいものだ。
そこに、一人の少女が膝を抱えて座り込んでいた。
乳白色のサマーセーターにブラウンのミニスカート。
脚には可愛いダークブラウンの革のブーツ。
細い首筋に細い足首。
なだらかで素直な肩から腰までのラインは、基本的に少女が細い体付きをしているのだと想像出来た。
そして艶やかな黒髪は、肩口で思い切りよくバッサリと揃えられていた。
眉が太くて鼻がほんのちょっぴり上を向いていて、
ぷくぷくしたほっぺたと引き結んだやわらかそうな唇がまるで年端もいかない少年みたいだ。
それでいて、薄桃色のカチューシャが、異性を意識し始めた頃の幼い少女の面影を残していて。
気が強く快活そうでいながら、全体的にひどく可愛らしい雰囲気の女の子だった。
けれど膝を抱えててもわかる、サマーセーターを思い切り内側から押し上げている胸のヴォリュームは、
彼女の体付きと可愛らしい顔立ちにはひどく不似合いだった。
そんな可愛らしい女の子が膝を抱えて、世の中の全てを斜め下から見上げるような、
そんな拗ねた目付きで見詰めているのは、遠くにたなびく煙突の煙。

――知ってる。

あれは10歳の時まで住んでいた4丁目の、村松さんとこの『松の湯』の煙突だ。
6歳の時に同じ町内の“子ども会”で、
家から2軒西に住んでいた幼馴染みの男の子にそそのかされて二人で登り、
消防車まで出動するくらいの大騒ぎに発展した挙句、
親や町内会役員や果ては学校の校長にまでこっぴどく叱られた記憶が、おぼろげにまだ残っている。
あの時はかなり上まで登ったような気になっていたし、
実際、大人達があれだけ怒るのだからそれはもうスゴイところまで登ったに違いないと固く固く信じていたのだけど、実際は地上から10メートルも上がっていなかったのにはひどくガッカリしたものだ。

あの時のきっかけも、その幼馴染みの男の子――城山和敏(しろやま かずとし)が言った
「煙突の上から○○○を飛ばしてみないか?」という言葉だった気がする。
何を飛ばそうとしたのか、今となっては紙飛行機だったのかゴム動力飛行機だったのか、
はたまたプラスチックのフリスビーだったのか、それはもう定かではない。
ただ重要なのは、きっかけがあの和敏(馬鹿)の言葉だったということだ。
そういえばあの頃はいつもいつでも、トラブルは彼が持ってきていたような気がする。

そして、今回のきっかけも、和敏が言った「旅行に行かないか?」というほんのささいな一言だったと思う。

その言葉を聞いたのは、学校帰りに彼の部屋で晩御飯のカレーを作ってあげている時だった。
親元を離れ、独り暮らしをしている和敏のアパートは駅から遠い住宅街に佇み、
安っぽい青い屋根がやけに目立つ、築15年のボロだ。換気扇は油で汚れて変な匂いがしたし、
憎たらしい“茶色いあんちくしょう”がたまにコンニチワするし、
壁が薄いから隣の部屋の人声が筒抜けだし、ちっとも良い所が無い。
それでもしょっちゅうこのアパートを訪れたのは、“一応”和敏の幼馴染みで、
“一応”彼女で、“一応”この人となら将来一緒になってもいいかな?なんてことを夢見ていた少女にとって、
ひょっとしたらひょっとすると高校卒業と同時に自分も住むかもしれないそのアパートに出入りするのは、
いつしか至極当然の事のように思っていたからかもしれない。

――恋を、していたのだ。

かといって、そこには思春期にありがちな盲目的な性の暴走などはなく、
二人は今時の高校生にあるまじき素朴な純粋さで、
今日まで“性交渉”と呼ばれるものはキス一つすらしていなかった。
偶然にも(?)二人は帰る方向が同じなため、もちろん学校の行き帰りは一緒だし、
周囲に知人がいなければひっそりと手も繋いだりなんかしてしまうし、
時にはメールに可愛らしくハートマークなんか飛ばしてみたりなんかする、
まるで小学生でさえとっくに卒業してしまっていることをドキドキしながら日々の密やかな楽しみにしているような、彼女は、そんな女の子だったのだ。

そんな彼女が、和敏(恋人)の言う
「卒業したら旅行なんか滅多に行けなくなるから、卒業前に旅行…いっそ海外に行ってみないか?」
という、“聞きようによってはプロポーズとも取れなくもないかもしれない言葉”に賛同したのは、
それまでずっと“おあずけ”をさせていた彼への後ろめたさがあったのかもしれない。

正直に言えば、彼女は男の子に触れるのが、触れられるのが、
近くに長時間立たれるのが、たまらなく“恐い”のだ。
彼女に近付ける唯一の男性は父親を除けば和敏だけであり、
和敏だけには彼女も心を許していた。
でも、手を繋ぐ以上の行為は、和敏相手でもまだまだとても勇気が持てず、
結果、彼の好意に甘える形で今日まで来ていたのだった。
だから、彼女は今回の旅行で彼にヴァージンをあげるつもりでいた。
覚悟、したのだ。

恐いけど、いい。
和敏だからいい。

――我慢できる。

…いや、ちがう。
彼女にとって、もう相手は和敏しか考えられなかった。
抱かれるなら、和敏以外のほかには考えられなかった。
やがて計画が具体的になるにつれ、デートを重ねても、言葉を重ねても、
メールを何百通もやりとりしても埋められなかった心の空洞が、
そうすることでようやく埋められるのだと信じるようになっていった。

ただ彼女は、未成年は戸籍抄本より戸籍謄本の方が望ましいということも知らなければ、
パスポートを取得するには申請書裏面に父母の承諾署名が必要だということも知らなかった。
それはきっと“ようやく、身も心も彼のものになる”という事実に、知らず酔っていたのだろう。
だから、彼女は昨日の学校帰り、どこか夢見心地のまま胸躍らせながら、
和敏に言われるまま戸籍抄本を取りに市役所まで出向き、そして―。

「あ、パンツ見えてる!」

はしゃぐような子供の声にハッと顔を上げると、
河川敷の原っぱで小学生低学年ほどの子供が彼女に向かって指差していた。
ミニスカートごと膝を抱えていなかったため、下から丸見えだったらしい。
彼女は子供の言葉に苦笑し、涙の溜まった瞳で軽く睨み付けると、
脚を伸ばして背後に両手を付き、群青色に染まり始めた空を見上げた。
背筋を伸ばすと如実に感じてしまう、ブラをしても尚重力に引かれて肩紐を引っ張る重たい乳房は、
まるで重く実った果実か、南国の砂浜でたわわに揺れる椰子の実のようだった。
それが、肩に食い込むストラップの痛みと肩凝りとを引き換えにして、
昨日までの彼女のちょっとした優越感を刺激していたことは否定できなかった。
昨今、なんだかんだといって「おっぱいが大きい」というのは、恋愛において、
相手に対しても恋敵に対してもかなりのアドバンテージになるからだ。

同じ年頃の男子は、結局まだまだ乳離れしていないのか、母性や性愛を強烈に感じさせるおっぱいに、
ものすごく興味を示すのである。それは幼馴染みで恋人な和敏も例外ではなく、
いつも触れたそうに見つめるものだから、いつしか彼女は、
彼といるといつもいつもくすぐったいようなムズムズするような、
甘い甘い“うずき”を感じてしまうようになってしまっていた。
いつか、彼に触れて欲しい。
彼になら、めちゃめちゃにされてもいい。
吸われても、揉まれても、もっともっとスゴイことだってされたってかまわない。
…もっともっとスゴイことというのがどういう事なのか実のところ良く知らなかったりしたのだけど。

それが、きっと今回の旅行で現実になる。

彼女も、つい数時間前までそう思っていた。
目の前の河が夕日を反射している。
犬の散歩をしている中年の女性の影が河川敷に長く伸びていた。
夕焼けも、もうすぐ終わる。
ここまで彼女は、めちゃくちゃに走ってきた。
彼のアパートからそんなに離れていないだろうけど、今まで来た事の無い場所だった。
ズズッと鼻水をすすった。
おっぱいが痛い。
ブラでは支えきれないほどの重さだった。
じんじんする。
また大きくなってしまったのだろうか。
昨日まで、この痛みも全て、彼の喜びに繋がるのなら我慢できた。

でも今では、この痛みがひどく…どうしようもなく哀しく、疎ましいのだ――。

■■【2】■■

――あの時の衝撃は、たぶんこれからも忘れる事が出来ないだろう。

戸籍抄本の取得申請をした市役所の窓口係の男性が、通例どおりの事務手続きの途中で手を止め、
そしてなんだかひどく怪訝そうな顔をして少女に証明書の提示を求め、
彼女はカード式保険証とラミネート加工された学生証を差し出した。
すると係の男性は、まるで値踏みするように彼女の顔と、学生証の写真と、
ついでにブレザーの制服を下から押し上げる年齢に似合わないたっぷりと大きな胸を何度も繰り返し見て、
「お待ち下さい」
とだけ言ったのだった。
何か問題があるのだろうか。
待合スペースにある臙脂色のソファに腰掛けると、係の男性が奥に引っ込み、
上司らしい男性と何か話して、やがてその上司が今度はどこかに電話していた。

閉庁間近の所内は、平日だというのに様々な手続きをする人達でごった返していた。
ただ、学生は彼女一人だった。
彼女も二学期の中間テストのテスト期間でなければ、平日にここへ訪れることは出来なかっただろう。
それ以前に、市役所に用がある学生自体、そもそも珍しいのかもしれない。
結局、発行まで20分以上もかかった戸籍抄本は、それ以外は特に問題も無く彼女の手に収まった。
だが封筒に収めようと筆記机の上で折りかけた彼女が目にしたのは、
自分の項目にある信じられない文字だった。

長男。

…長女―ではない。
男、だ。
しかも御丁寧に、「性同一性障害」という文字が特記事項にあるのを見て、愕然とした。
しばらく呆然として、当然、次には「これは記述間違いだ」と思った。
けれど、何かの間違いだ、おかしい、調べて欲しいと窓口係に問い正しても、
書類ではそうなってるの一点張りで話にならない。
そうこうするうちに閉庁時間が訪れ、彼女はなかば追い出されるようにして晩夏の空気の中へと歩き出した。

それが、つい昨日のことだ。
実は彼女には小学校から一年ほど前までの記憶が無かった。
一年前、彼女の家は火事で焼け、その時彼女は不幸にも逃げ遅れかけた。
その時、煙に巻かれ昏倒した事が原因で、軽度の記憶障害を起こしたのだという。
顔や身体には奇跡的に火傷は無かったものの、昏倒した際にどこかで頭をぶつけ、
そして短時間の無酸素状態に置かれたため数時間に渡って意識が戻らず、結果、
3日間は集中治療室での治療を余儀なくされたのだとも。
その結果、おおよそ7・8歳あたりから17歳までの記憶の大部分が、ごっそりと欠落してしまったのだ。
それは、日常生活における経験や社会通念、常識などはほとんど欠落せず、
いわゆるエピソード記憶や意味記憶(記憶のうち言語で表現できる種類のもの)を失う
「宣言的記憶(陳述記憶)健忘」と診断された。
これらは全て両親と病院の医師から説明された事ではあったが、
彼女自身には火事にあったことも煙に巻かれたことも何も覚えていなかったためその真偽は確かめようが無かった。
それに、事実、火事の事は母が切り抜きで見せてくれた新聞にも残っていたし、
何より両親を疑う理由が無かったのだから、高校三年の今まで、それを全て事実として受け止めてきていたのだった。

火事によって、自分の部屋にあったものだけでなく、彼女と家族の過去に関するものは何もかも焼けてしまい、
倉庫にあったためかろうじて焼け残ったアルバムの一部から、数枚の写真だけが彼女の過去を証明していた。
病院の白いベッドの上で、母に見せてもらった写真には、小学校の頃の彼女が髪を男の子みたいに短く刈って、
服も男の子っぽい活動的なデザインと色を身に着けて遊んでいる姿が写っていたのだ。
一緒に遊んでいる仲間も男の子ばかりで、
両親は小さい頃から御転婆で困ったと楽しそうに笑いながら語ってくれたのだった。
思えば、小学校の時は自分は男の子だと本気で思っていた。
そういう記憶が残っている。
幼馴染みの和敏…当時はカズくんと呼んでいた…と立ちションをした記憶まであるのだ。
あの時、確かに自分には“チンチン”があったと記憶してたけれど、実は違ったのかもしれない。
小さい頃、男の子に混じって一列に並び、ズボンを下ろして立ったまま放尿していたのだと考えると、
それだけで顔から火が出そうになったことを覚えている。
病院のベッドの上で突然顔を真っ赤にして身悶えし始めた自分の娘を、母が不思議そうに見ていたことも。

それが一年前の事だ。

■■【3】■■

昨日の市役所からの帰り道、彼女は自分が記憶を無くしているにも関わらず、
どうして今まで過去のクラスメイトや友人を尋ねて過去の自分を取り戻そうとしなかったのか、
不思議に思っていた。現在は過去の上に成り立つものである。過去が無ければ、
人は拠るべくものを失って不安になるのが当然だろう。
でも、彼女はそれをしなかった。
この1年間、クラス会のような過去の自分を知る人との邂逅の機会が無かったこともあるが、
幼馴染みの和敏がいたことで、自分の失われた過去を全部取り戻したような気になっていたのかもしれない。
幸せだった。
満ち足りていた。
そんな一年だった。
だから、過去を失った事に不安を感じなかったのだろうか?

けれど、どうしても自分が元は男で、性同一性障害によって性転換したのだとは到底思えなかった。
年齢の割には多少大き過ぎるように感じなくもないたわわな乳房も、
健康診断の際に取った胸部レントゲンでシリコンや生食パックなどで膨らませた人工乳ではない事は
(もともと自分の胸が嘘乳だなんて思ったことが無いのだから、
確かめようと思って見たわけじゃないけれど)承知済みだし、第一、彼女には毎月ちゃんと生理があるのだ。
つまり子宮と卵巣は正常に機能しているということで、
それに膣だって(誰かに確かめてもらったわけじゃないけれど)ホンモノだ。
クリトリスだってちゃんと普通のサイズで、チンチンみたいな大きさなんかじゃない。
両親に聞いてみる前に自分の中で整理したくて、市役所から帰ってきて晩御飯の前に、
彼女はバスルームで自分の身体を調べてみた。

…ちゃんと感じた。

湯あたりしてへろへろになってバスルームを出ると、あまりに長湯だった娘を心配して母が廊下に立っていた。
バスルームでしていた事を知られたかもしれない恥ずかしさに、
少女は女の子らしく丸みを帯びた豊満な体を縮こまらせながら二階の自分の部屋へ逃げるようにして上がった。

下から聞こえた母の、
「ヘンな子ねぇ…」
の言葉に、ちょっとムッとしながら。

でも結局、両親に戸籍のことは聞けなかった。

聞くことで、聞いてしまうことで、この今の幸せに満ちた生活が壊れてしまうのではないかと恐れたのだ。
そしてその恐れが現実のものとなったのが、今日の事だ。
今日…和敏とキスをした。
たっぷり時間をかけて、
普段履かないようなミニのスカートと和敏の大好きなおっぱいのラインがクッキリと出るサマーセーターを着て、
「可愛いって褒めなかったら蹴っ飛ばす!」とか思いながら向かった彼のアパートで、
「可愛い」と言われて「似合う」と言われて「普段からそういうカッコすればいいのに」と言われ、
挙句に「好きだ」と言われて「ぎゅってしていいか?」と言われたら、
もうとろとろにとろけて身体を預けてしまうしかなかったのだ。
ファースト・キスだった。
大人達がするような、互いを貪るような動物的なキスなんかじゃなく、小鳥がするような、
唇と唇を軽く触れ合わせるだけのものだったけれど。
身体が、震えた。
寒さに凍える子ウサギのように体中が震えて止まらなかった。
彼に見詰められ、肩を抱かれ、覚悟したはずなのに目を瞑った途端恐くなった。
自分が今から何をされるのか十分理解していたし、
了承した証拠として目を閉じたのだからキスされるのはハッキリとわかっていた。
手がじっとりと汗ばんでいるのがわかった。
心臓が面白いくらいドキドキと跳ね回っていた。
頬のあたりにかかる彼の吐息がミントの香りを含んでいて、
ちゃんと彼が自分に気を使ってくれていることを頭の片隅でむちゃくちゃに喜んでいる自分がいた。
彼は私を大事にしてくれる。
大事にしてくれようとしている。
けれど、その自覚と身体の震えは別物で、どんなに肩を抱く彼の手が優しくても止められるものではなかった。
変わる。
自分が変わる。
その確信があったのかもしれない。
唇に触れた彼の唇のやわらかさに、
吐き気がした。
彼を突き飛ばし、逃げるようにしてトイレに駆け込んで胃の中のものを全て吐いた。
涙と鼻水と酸っぱい胃液を全部出して、
彼のために精一杯オシャレして1時間もかけて選んだお気に入りのサマーセーターの右袖で強引に拭った。

心配してトイレを覗き込んだ彼を再び突き飛ばし、呆然とする彼を横目に部屋を横切ってブーツを掴むと、
裸足のままアパートの階段を駆け下りた。バッグが彼のベッドの上に放り出したままだと気付いたのは、
裸足のままめちゃくちゃに走って、どこか知らない細道の交差点で立ち止まった時だった。
和敏が追いかけてくるかもしれないことが恐くて、物陰に隠れてブーツを履くと紐を適当に結んで再び走った。
ブラをしていても盛大に上下に揺れまくる胸が鬱陶しくて、涙が後から後から溢れて流れた。
髪をなびかせ、胸を揺らし、泣きながら走る少女に、道行く人が奇異な目で見た。
でも、構わなかった。
この自分は自分じゃない。
本当の自分じゃない。
それに気付いてしまったから。

かつて自分は、男だった。

その記憶が、封じたはずの記憶が、彼女の脚を、ただ和敏の元から少しでも遠くへと動かしていた。

■■【4】■■

1年と四ヶ月前の朝。
6月だった。

目覚めると女になっていた。

そんな、冗談のような、中学生の妄想のような、馬鹿馬鹿しいことが自分の身に起こっていた。
本当の自分は、鹿島望(かしま のぞむ)という、小太りの少年だった。
背が低く、動きが鈍く、勉強も出来なくてスポーツなんて論外な、暗くて目立たないクラスの「幽霊」だった。
そこにいてもいないものとして扱われ、話題に入れてくれる親しい友人もいなかった。
そんな自分が、どうしてこんな事になったのか。
父は出張中で、母は仕事場である研究所で泊まったみたいで、家の中には自分ひとりしかいなかった。
ダイニングのテーブルの上には、カビの生えたパンと干からびた目玉焼きがラップの下で嫌な色になっていた。
とうとう母まで自分に嫌がらせするようになったのか。
彼はなかば本気でそう思い、テレビを点けて呆然とした。
彼がいつものようにベッドに入ってから、4日が経っていた。
自分は、4日間も眠っていたのか?
そして我に返ると、不意に吐き気がするようなすえた匂いを感じた。
何かが腐ったような、発酵したような、それでいて脂と酢を混ぜて酸化させたような妙な匂いだった。
その時になって初めて、彼は体中が痒いと感じた。
ボリボリと掻いた首筋から、黒っぽいものがボロボロと落ちた。
垢だった。
わけがわからなくて、混乱して、朝からシャワーを浴びた。
脱衣所で見た自分の身体は、雑誌のグラビアとかでしか目にしたことが無いような、ひどくいやらしい体付きをしていた。

体中の余分な贅肉が、全部女の丸みになったような体だった。
特に、乳房が異常に肥大化していた。
片手ではとても掴み切れないたわわに実った柔肉に、彼はとても興奮した。
彼はいろんな角度で鏡に映してみたり、揉んでみたり、“たぷたぷ”と揺らしてみたりした。
でも、すぐに飽きた。
人のものならいざ知らず、自分のおっぱいにそういつまでも興奮出来るわけがない。
何より、重くて動きにくくて、たちまち肩と背中が痛くなる。
混乱しきった頭で身体を洗っているうちに、学校のことが気になりだした。
行かないわけにはいかない。
でも、この姿では誰も自分だと信じてはくれないだろう。
そう思いながら、あの、つまらなくて苦痛でくだらない、
捨て去ってしまいたい日常から脱する事が出来るかもしれない。
そうも思ったのだ。

突然の事でブラも無く、シャツを重ね着しただけのゆさゆさ揺れ動く胸で登校した初日は、
男女問わず注目を集めた。
何より、数日前まで見たことも無い可愛らしい少女が、
今まで意識するどころか存在することさえ気付かなかったような小太りの冴えない少年だったという事実が生徒達を驚愕させたのだ。
彼は嬉しかった。
今まで誰にもかえりみられる事もなく、道端の石ころと同じような存在でしかなかった自分が、
一躍学校の話題の中心になったのだ。
どういうわけか、教師は彼の言うことをすぐに信じてくれた。
彼が「鹿島望(かしま のぞむ)」だと認めてくれたのだ。
そして、今まで彼を汚いものでも見るように、もしくはそこにいないものとして見ていた女子が、
ひどく好意的に対してくれたのが、彼には一番嬉しかった。
すぐに友達が出来た。
隣のクラス委員長の「香坂朋花(こうさか ともか)」という、どこか気の強い、
今まで望が苦手としていた女の子だった。
同じクラスの女子達も、気味が悪いくらい親切にしてくれた。
今までの自分を嫌っていた人も、変わった今の自分なら好きになってくれる。
彼は…浮かれていたのだろう。
そもそも、危機感というものが欠落していたのだ。
それは、今まで彼をいじめていた連中の眼前に、極上のステーキ肉を放置するようなものだった。
彼は、『彼女』は…その日の内に犯された
やめていやだごめんなさいゆるしてと泣き叫び懇願し震えて逃げる『彼女』を押さえ付け、
引っ叩き、晩餐用の哀れな鶏の羽をむしるように夕日に染まる体育倉庫で制服を剥ぎ取り下着をずり下げ脱がせて、
形だけ所属して一度も試合には出させてもらえなかったどころか、
いつも部活の後片付けだけ押し付けていたバスケ部の、その部員達に
「本当に女になったか確かめてやるよ」
そう言われながら。
次々と犯された。

代わる代わる何度もチームメイト達に床運動用マットへと押し付けられ、
無理矢理開かれた両足の間にねじ入れるようにして押し込めた身体で、
息が出来ないほどの激痛を与えられた。
一人目は身体が引き裂かれるような。
二人目は身体の中が焼けるみたいな。
けれど三人目からは、もう何も感じなくなっていた。
うつ伏せにされ腰を両手で掴まれたまま、
リズミカルなピストン運動で白くてやわらかくて滑らかな自分の柔尻と男の下腹が立てる湿った音を聞いた。
男達は、声も無く身じろぎして逃げようとする彼を押さえつけるようにして、
根元深くまで屹立した剛直を挿入したまま、気持ち良さそうにたっぷりと膣内に射精した。
高さを調節された跳び箱へうつ伏せに押し付けられ、
後から破瓜の血の混じった精液ごと男根を身体の奥深くまで挿し込まれて、
重たい自重のため重力に引かれどうしようもなく紡錘型に垂れ下がったおっぱいをおもちゃにされた。
乱暴に揉まれ、叩かれ、抓り上げられて捏ね立てられたおっぱいは、
彼等が飽きる頃には真っ赤に腫れ上がってひとまわりも大きくなっていた。
お尻も叩かれた。
まるで折檻でもするように。
肛門に新体操のクラブの柄を突っ込まれ、ぐりぐりと好きに弄くりまわされた。
泣き叫ぶ口に臭い男根を突っ込まれ、吐き気にえづいて歯を立てれば「全部折ってやろうか?」と脅された。
だから喉の奥まで飛び散り張り付いた精液は全部飲まなければならなかったし、
尻肉を両側から押し開かれて破られたばかりの処女膜を覗き込まれた時も
泣きながら声を押し殺してじっとしていなければならなかった。
体育倉庫に集まった部員は、最初は4人だったが、終わる頃には10人くらいになっていた。
お尻から溢れ出る精液を、ポケットティッシュで拭いながら声も無く泣き咽ぶ『彼女』に、
胎内にたっぷりと精液を注ぎ込んで満足しきったチームメイト達は、
ケータイに克明に記録された何十枚ものレイプシーンを見せ、
学校を一日でも休めば住所と名前入りでネットにバラ撒くと脅し、ゲラゲラと笑った。
女になってから初めての登校日は、4時間近くも犯され続け、
帰宅時間が夜の9時をとっくに過ぎていた。
両親は、その日も家に帰ってこなかった。

それから数週間、チームメイトという悪魔達に何度も何度も何度も、
おもちゃのように犯され、膣内で射精された。

「お前は女だ」と、魂の底までザックリと刻み込まれた。
もう、男だった頃の自分をハッキリと思い出す事も出来なくなっていた。
そして『彼女』は、呼び出されればどこにでも行き、そこで便所に放尿されるような気軽さで犯された。
校舎裏の飼育小屋の陰。
体育館裏。
体育館倉庫。
体育館舞台下の倉庫。
屋上の給水塔の陰。
人があまり来ない西館3Fの階段の陰。
化学準備室。
家庭科室。
美術準備室。
音楽準備室。
生徒会準備室。
アンモニア臭が鼻につく、グラウンド南のお化け便所。

人の目を盗むように、けれど“老婆しかいない書店で万引きするくらいの大胆さ”で、
少年達は若い性の欲望を『彼女』の中に放出していった。 毎日必ず誰かに犯される日々。
昼休みに3人、放課後に5人相手した事もあった。
フェラチオだけなら10人までヌイたこともある。
男達の男根を口いっぱいに頬張りながら、このまま噛み千切ってやりたいと思った事は一度や二度ではない。

殺したいと思った。

殺してやりたいと。

だが、実際には自分はもう今は“ひ弱”な女でしかなく、
組み敷かれ無理矢理体を開かされて泣きながら彼等を受け入れるしかなかった。
泣けば彼等をもっと喜ばせるだけだと思いながらも涙は止まらなかったし、
嗚咽は押さえようもなく唇を割って漏れた。
死ぬことも許されなかった。
死ねばお前と仲の良いクラスの女をひどい目に合わせると言われた。
もう、自分を殺すしかなかった。

授業中でもケータイを切る事は許されなかった。
2回コールして5秒して3回コール。
それが合図だった。
いつしか『彼女』は頻繁に授業中にトイレに抜け出す、「尿意の近い女」として嘲笑され、
囁かれるようになった。
けれど実際は、用を足しにいくのではなく、用を足されにいっていたのだ。
なぜなら『彼女』こそが“便所”であり“便器”だったから。
行く場所は、保健室の4つ右隣にある化学準備室だった。
そこは人気の無い特殊教室練の中でも、
建物と木々の陰になって一般教室練からも人の出入りがわかりにくい教室の一つだった。
『彼女』はそこで、同じく授業を抜け出してきたチームメイトの“性処理”をした。
早く射精させて授業に戻らないと、教師に怪しまれ、いずれバレてしまう。
その一心で、出来ることは何でもした。
授業中なのにフェラチオもした。
巡回する教師に怯えながらおっぱいを剥き出し“乳マンコ”と呼ばれたパイズリもした。
早く終わるためなら自分からキスもしたし、唾も飲んだし、男の肛門だって進んで嘗めた。
机に左手を付いて右手でスカートをたくし上げ、後から尻を抱かれながら男が腰を振って果てるのを待った。
膣から垂れた自分の愛液(ジュース)と男の精液(シロップ)が、
ぐちゃぐちゃに混ざり合った粘液が脚を伝ってソックスに染みるのただ感じていた。
耐え切れずに机に突っ伏し、息も絶え絶えに艶声を殺して下唇を噛めば、
声を上げさせようと更に激しく責め立てる男もいた。
こんな場面を見つかれば、自分もただでは済まない事はわかっているはずなのに。
そんな風であったから、膣内に精液を溜めたまま授業を受けたのも一度や二度ではない。
赤らんだ顔で乱れた髪を直し、ふらふらになりながら教室に戻った後、
ひそひそと囁く女子達が全て自分を笑っているように感じた。

何人も相手した後の、広がった胎内にチームメイトの精液をいっぱいに溜め、
栓をするように太いバイヴを挿入されたまま授業を受けた事もある。その日の休み時間は、
決まって乳マンコで他の男達の性処理を強要された。

気が狂いそうだった。

便利に犯され続ける日々。
便所と呼ばれ、便器と呼ばれ、口も乳もあそこも肛門もおもちゃにされる日々。

そして、『妊娠』の恐怖に震える日々。

検査をしたのだ。
数週間後、ようやく母に自分が女になったことを理解してもらった結果、
母が強引に自分の研究所へと連れて行ったのだ。
結果、自分の身体は、卵巣も子宮もある完全に女の肉体だった。
生理だけが無いのだ。
でも、いつ排卵が来るかわからない。
妊娠なんかしたくなかった。
たとえ妊娠しても、誰の子供だかわかりはしない。
中絶は死ぬほど恐かった。
まだ赤ん坊の形にすらなっていないモノを、
銀色の器具を膣から突っ込んで胎盤ごと強引に掻き出すのだから。
膣内に射精されるのが嫌で、恥ずかしいのを我慢して購入したコンドームは、
男達に目の前で風船みたいに膨らまされ、飛ばされ、捨てられた。ピルは買えなかった。
薬局に普通に売ってるかと思えば、ピルの購入には医師の処方箋が必要で、そんなものもらえるはずもなかったからだ。
「男だった女が本当に妊娠するのなら見てみたい」
そう言って、彼等は膣内射精をやめようとするどころか、最後は必ず胎内に出すようになった。
フェラチオしていても、イキそうになったら『彼女』を突き飛ばして脚を開かせ、
どろどろになったあそこに深くまで容易く挿入して射精する。
乳マンコをしていても。
手でしてやっていても。
最後は必ず『彼女』の膣内にその“汚物”をぶち撒けた。
自分は薄汚れた一つの精液袋だ。
いつしか『彼女』はそう思うようになっていた。

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